21世紀のスタンダード音楽〜あるバンドマンの悲劇(TORTOISE以後の世界)〜6人いる!

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暑い夏の昼下がり、5人で近所の貸スタジオに乗り込む。予約していなかったにも関わらず運よく部屋が空いていた。とりあえず2時間キープしてクーラーが効き過ぎて凍りそうなAスタジオに入る。ギタリストがすかさずマーシャルアンプを引きずって自分の好きな位置へ移動し始めた。ベーシストはマイペースだ。自分の椅子を確保してベースアンプの前に置いて座ると、準備もせずにもう一息ついている。俺は乾いたマウスピースを握り締めて唇に宛がい湿らせながらメンバーを眺めていた。
残りの2人が・・・なにやら言い争いを始めた!いや、二人が喧嘩しているわけではない。各々が怒りを露にして向き合っていただけだ。2人ともその怒りの矛先をこのスタジオの責任者に向けているらしい。ドラムスティックを両手に握り締めたままの2人が双子のようにユニゾンで俺に向かってこう言う。
「おいリーダー!ドラムが一台しかないぜ!」
俺は予想通りの展開に堪え切れずに声を上げて笑い出した。おいおい、いったい今は西暦何年だよ?俺たちはコマーシャリズムに犯された見せ掛けだけのファッションパンクバンドじゃないんだぜ!俺たちは単純に21世紀のスタンダードな音楽をやりたいだけだ。別に新しい音楽を創りたいわけじゃない。それなのにまったく・・・未だにこの国はバンドといえばドラムが一人だと決め付けてやがる!お前たちはトータスっていうイかした世界最強のバンドを知らないのか?あいつらが世界のバンドマンたちにどれほどの影響を与えているか知らないのか?あいつらのせいで、何人のギタリストがドラムスティックを握り始めたか知らないのか?
もう一度言う!俺は新しい音楽を創りたいわけじゃない!21世紀の音楽をやりたいだけだ!
その時、隅っこで寂れていたもう一台のギターアンプから奇妙なノイズが聴こえ始めた。俺たちに背中を向けてしゃがみ、足元に並べられたエフェクターを手で操作しノイズを生成している奴がいる!そいつが見事な猫背を俺たちに晒したままの姿勢で顔だけこちらに振り返る。振り返ったそいつの目が光る!ノイズが部屋を埋め尽くす!2人のドラマーが左右のクラッシュシンバルを連打する!ギタリストが狂ったように弦を引きちぎる!俺は興奮して踊り出す!べーシストは・・・寝てる!!!
なんてマイペースなんだベーシスト!
※フィクションですよ。。